アトピー性皮膚炎
馬場直子
神奈川県立こども医療センター皮膚科
当科は紹介予約制の子ども専門病院であるが、治療に難渋していてコントロールできないと紹介されてくるアトピー性皮膚炎(AD)の小児が後を絶たない。AD治療では、皮膚の炎症を早く抑えてバリア機能異常を是正することが、アレルゲンの侵入による経皮感作を防ぐ意味でも重要であり、病態に基づいたスキンケアと外用療法を完璧に行うことができれば、炎症や痒みをコントロールでき、それほど悩む必要のない疾患になってきている。それにもかかわらず日常の診療現場では、患者さんに研究成果が十分に生かされていない現状もある。特に小児では、保護者の方が様々な情報に惑わされ薬に対する過剰な心配のあまり、外用療法・内服療法が不十分であるため、良いコントロールが得られていないことがまだまだ多い。
乳児の顔面に皮膚炎がありバリア機能が破壊されていると、食物やダニ・ハウスダストなどの環境抗原が皮膚から体内に入りこんでしまい(これを経皮感作という)、その後のアレルギーマーチへと進展していく危険性さえはらんでいる。実際、乳児期早期に重症な湿疹がありバリア機能異常があったと思われる児ほど、その後のアトピー性皮膚炎や食物アレルギー発症のリスクが高かったという疫学的データもある。
乳児期のアトピー性皮膚炎のコントロールが悪い理由として、適切な外用薬が処方されていても自己判断で加減したり中止してしまったりするケースが多いこと、入浴時の洗い方、薬の塗り方がきちんと指導されていないために不適切であることが挙げられる。小児AD治療においては、保護者の方の意識を変えてモチベーションを高めることが何より大切で、皮膚が良くなってもなおスキンケアと外用療法を手を抜かずに継続するプロアクティブ療法を完璧に行うように導くことが、治療を成功に導く鍵であると考えている。
しかし、標準的な外用療法を続けていてもなおコントロールが悪い状態が長年続いてしまうと、慢性炎症が持続し、非可逆的なスイッチが入ってしまう。そうなるともはや外用療法だけでは完全に炎症や痒みを抑えられなくなってしまい、本人もう治ることなどないとあきらめきってしまい、人生に前向きになれなくなることすらある。ここで最近登場したのがADにおけるバリア機能異常・炎症・痒みと深くかかわっているTypeⅡサイトカインの主役であるIL-4とIL-13を抑えるデュピクセント皮下注である。現時点では15歳以上のADにしか使えないが、実際に使ってみると予想以上の早さで、痒みと炎症がおさまり、かつモチモチ、スベスベの感触の皮膚となり、性格まで明るく前向きになったと感じる。
小児ADの治療においてはスキンケアと外用プロアクティブ療法で、完全寛解をめざすが、もし外用プロアクティブ療法だけでは完全寛解に至らない時は、15歳以上であればデュピクセント導入も考慮し、夜は熟睡できて、成長や、翌日の活動に支障がなく、心身ともに将来に悪影響を残さないことを目標にしたいと考えている。
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